猫

檸檬

 

 僕はあの子に丸い筒を突きつけた。

 

 昨日見つけたとっておきの果実酒だ。

 

 あの子はこれが大好きなのよ。と、あの子のお母さんが教えてくれた。その言葉は本当だったようで、さっきまでの警戒が嘘のように夢中になっている。仲良くなりたかった僕としては上々の反応だ。

 

 それにしても本当に大好きなようで、抱き上げても文句一つ言わない。今までの子たちと比べても群を抜いて大人しい。毛並みも美しく、とても可愛がられていることが窺える。素晴らしい猫だ。こんなにいい子を僕の手で作り変えられるなんて。ああ、この感動を誰かに自慢したい! でもそれをすると、あのお母さんや今までの人たちに僕の行為がバレてしまう。せめてこの子を生まれ変わらせるまでは我慢しないと。

 

 今度は上手く作れるだろうか。まずはあの子が大人しくしているうちに、ひっそりと僕の作業場まで連れて行かなくては。そういえば、最近は猫の失踪が多いようだからケージに入れた方が安全か?

 

 そんなことを考えながら、あの子を抱えて作業場にむかう。

 

 メガネに夕日が反射した。