夢を見ることによる人生の基礎能力の向上とそれに対するアプローチの考察と睡眠不足
タピオカ
いつからか私は夢を見ていた。
終わりのない道を進む、永遠の夢を……。
数が多いモノには価値がないと中学校の先生に教わった。多分、市場と経済の授業の時だった気がする。
その言葉を聞いた時、私が最初に思ったのは、「じゃあ、この世で一番価値がないモノは人間じゃないか」と。
例えば世界に二百匹しかいないジャイアントパンダは檻に入れられて大切に、丁寧に、人々の見る玩具にされて愛されている。
いっぽう七十億もいる人間は、檻に入っているのは悪いことをした人達だ。お世辞にも世間からは愛されているとはいえない。誰もお金を払ってまで見に行かないだろう。多分。
檻に関することを一つとっても、人間と少数生物の扱いには大きな差がある。
言い忘れていたがここでいう価値とは金銭的な価値ではなく、単なる数量的な価値のことだ。
先生にこの考えを話したところ、気持ち悪いモノを見るような目で、
「人間には個性がある。だから、人間は単純な数字として数えることが出来ない。一人一人かけがえのないものだ」
ほほぉ……と、私は納得した。
そういえば有名人には、プライバシーは存在しないように扱われている。
どこで何してるかを、リアルタイムでネットに拡散され、過去の出来事はほじくり返される。
まるで、それこそ檻の中のパンダと同じだ。丸裸で全世界に晒されている。
先生の言っていることはある意味真理かもしれなかった。パンダはアイドルであり、アイドルは嵐だから、パンダは異常気象である。
眠気で血迷って話がそれた。
そこでこの話を終わらせておけば良かったが、没個性的な私には、またある疑問が浮かんだ。
今の人間に『個性』なんて大層なものは存在するのか、という疑問だ。
大多数の一員となることを是とした人間が溢れているこの世の中で? 個性を、異常と履き違えてる世界で?
本当に個性と思ってるものは個性なのか。英語でいうとパーソナリティなのか。
オーソリティによって形成されたものじゃないのか? その場の空気でしょっぱいキャラを演じさせられているだけなのでは。はい、ソルティ。ギルティ。オーソリティ。
何言ってるか自分でも分からない。
話を戻す。
そんな戯言を先生に問い返したくなったが、その前に先生は何処かに行ってしまって教室にはいなかった。話の途中だというのに。おこ。激おこプンプン丸。きっしょ俺死ねや。
――その日変な夢を見た。おじいさんになった私が死ぬ前に走馬灯を見てる夢だ。変だったから覚えてる。
大学を出て、大学院に行って就職するまでの夢だ。
一見普通の夢だと思うだろう。だが、全くもって一切合切何から何まで変な夢だった。
何が変だったのかを一言で言えば『俺、こんな陽キャじゃねぇ』ってことだった。
メジャーデビューを目指して頑張るバンドを組み、ライブハウスで下手くそな歌を歌ってる夢だ。
まず、ギターもベースも弾けないし、楽器も持ってない。あと、音痴。見てて痛いくて、死にたくなった。夢での出来事なのに。
……けれど、めちゃくちゃ変ではあっても、絶対にありえないとはその時は思えなかった。
今はもう大学も卒業して、ただの社畜だ。あの頃には決して戻れない。
どっかで勇気を出してたら本当に夢を追いかけてたのかも、なんて手遅れだけど夢想したり。
私たちは夢を見る。自分がかけがえのないものだという夢を。自分の代わりなど、腐るほどあるのに、張りぼての自己満足を貼り付けて。
そしていつかそれが虚しいものだということに気づく。形の残らないものを過去に残した後悔は消えず、だから過去に囚われて現実逃避したり、不確定な未来に怯えてしまう。
けれど、いつの日かその夢にも終わりがやってくる。夢を見たまま消えていく。誰の記憶にも残らないまま。
まぁ、みんながそう死んでいくから別に怖くないけど。こういう考え方が、没個性たる所以なんだろうな。
夢は叶わないから尊いなんて臭いセリフがあるけど、夢はかなった方が良いに決まってる。だからと言って怖がって挑戦しないのは怠惰ではないか。ん? ……あぁ、特大ブーメランで胸が痛い。
別に誰の記憶に残らなくてもいいんじゃないか? 自分の記憶に何も無い方がよっぽど怖い。
夢を追いかけて失敗した記憶がある方が、他人からの肯定を望むよりもよっぽど健康的だし、何よりも笑い話にできる。
クラークさんも言ってたはずだ。
『少年よ大志を抱け』と。
この言葉の前にはもうワンフレーズあって、『私のように大志を抱け』というフレーズがある。
少年に大志を抱かせるにはまず、社会の荒波で疲れきって汚れた大人が大志を抱かなければいけないのだ。
だから私は夢を見るために、今日は早めに寝ます。明日も四時起き。久しぶりの早寝(午前一時)きんもちぃぃ!!
いつからか私は抜け出せない夢を見ていた。
終わりのないように見えたその道の終わりはすぐそこに。