婆ちゃん
りつあん
一八:○○。曇りの夕方とも夜とも言えない時間。ある都会のマンションの一室で一人の少年が目を覚ました。繰り返して言うが一八:○○である。むくりと体を起こした彼は一言、
「……うぁ、眠」
……知らんがな。
それはともあれ、ようやく活動を始めた彼の名前は乾だ。ちなみに正体は引きこもり犬耳男。
「室内犬少年だ、ボケ。情報は正確に発信しろ、このクソ作者」
いやそれを言うなら“自称”室内犬少年でしょうが。
「……とりあえず俺に自己紹介させろよ」
逃げるな。っていうかその寝癖自慢は聞きたくないからこの不肖クソ作者が勝手にさせていただきます。こいつ――乾――の特徴は毎日位置の変わる犬耳。とどのつまりは寝癖。
こいつの紹介が終わったところで描写に入ろう。なんで今、起きたんだ!
「バイト。学校は自主休校した」
おい。このサボりめ。ってバイトする引きこもりっているのか。
「引きこもりだろうがなんだろうが金はいる」
なるへそ。随分と俗物的な引きこもりなんだな。
「悪かったな、俗物的で。ふん、なんとでも言いやがれ。俺には金を恵んでくれるような心優しい知り合いはいねんだよ、心冷たいクソ作者」
随分な言い様だが起きてもう30分経っているのにお前は何のんびりと不満をぶちまけてんだ。
「お、やべぇ。ナイス、神作者様!」
調子のいいことを呟きながらやっとのことで仕度を始めた乾であります。
そしてそこから更に10分後、ようやっと用意をした乾は部屋を出た。彼のバイト先は深夜も営業している某コンビニチェーン店。なんと徒歩5分で着く。
その道中で乾はとあるお年寄りを発見した。見たところ、どうも女性である。しかも、困っているご様子。考えるより先に動く性格の乾だが、今回に限っては少し思考した。というのも彼の将来の夢はありとあらゆる婆ちゃんに貢がれて生活することなのだが、今まで関わってきた大体が貧乏で貢いでもらうなんてできそうもない人ばかりだったのだ。それでも見て見ぬふりはできない、否、希望を捨てきれない彼はその婆ちゃんに声を掛けた。
「どうしたんですか?」
「あぁ、実は5円を落としてしもての。神社にお参りに行くんでなんとか用意したんだが、このままでは神様とのご縁が切れてしまう」
「一緒にお探ししますよ」
こうは言ったが乾は失望していた。また、貧乏な婆ちゃんだったわけだ。
無事、その5円玉は見つかり、乾はその婆ちゃんに感謝され、小さな干菓子をいただいた。
ちょうどその婆ちゃんと別れたころに雲がはれ、満月がその姿を現した。その途端に、乾の腹がぐぅと鳴った。
「うわぁ、月、出てきたのかよ。道理で腹が減るわけだ」
乾は月光を浴びると腹が減る、らしい。
「はあぁ、金持ちの婆ちゃんってどこに転がってんだろうな……」
乾はそう呟き、いつもポケットに入れているうるめを取り出して、齧りながら、バイト先に向かった。