雨音

 

仏谷山飛鳥

 

 昨日の晩、雨が降り続いた。一晩明かしても道路には無数の水溜り。学校へと向かう足もヒキガエルの衣を纏っている。この時期になるといつもそうである。週のほとんどが雨に濡れて帰る日となる。

 

そんな夏の前のある日、僕の友人は妙なことを言うようになった。

 

「藍色の空は北風を呼んでくるよ。」

 

探偵小説の読みすぎか。僕も最初は相手にもしなかった。

 

「何言ってんの? それより、今日は塾一緒に行こうぜ。」

 

彼は頷きもせずに、そのまま僕と一緒に学校へ行った。

 

 クラスではどちらかというとおとなしい方の彼だが、僕はそんな彼とは正反対の性格だった。だから学校では彼とはあまり話さないが、同じ塾に通っているため、学校以外ではよく喋る仲だった。彼の異変に気付いたのはそれから間もないころであった。

 

 ちょうど一週間が過ぎた。今日も雨の降る朝だったが、空は藍色だった。いつも一緒に登校していた彼が、突然学校をさぼり始めた。そんな時ふと思い出したのが彼の言葉だった。

 

「藍色の空は北風を呼んでくるよ。」

 

彼の事が気になった僕は、放課後彼の家を訪れることにした。

 

インターホンを鳴らすと、彼の母親が顔を出した。僕が事情を訊くと、彼の母は事情を話してくれた。話によると、彼は学校でいじめを受けているために、相手の生徒を恨んでいるのだという。さらに、その生徒に会うのは気が引ける、というのである。だが、彼がいじめを受けているのを見たことはないし、推測できそうな相手もいるが、いじめているような感じではなかった。とりあえず僕は彼の家を離れて家へ帰ることにした。

 

家からは遠かったが、慣れていた。まだ雨は降り続いており、辺りは雨の音で包まれていた。

 

すると突然、後ろから人の足音が迫って来るのが聞こえた。この雨の中である。相当急いで走っているのだろう。足音は大きかった。気にせず歩き続けていた次の瞬間、僕は後頭部に鈍痛を感じた。何が起きたのか分からなかった。そのまま僕は全身を誰かに殴られ、蹴られた。僕は雨の中に倒れこんだ。そして間もなく、意識を失った。

 

 再び目を開けた時、そこは病室だった。この時期には珍しい、晴れの空が窓の外には広がっていた。僕は丸二日眠っていたようであった。数日後僕は退院し、学校にも通えるようになったが、相変わらず友人の彼は学校には来なかった。クラスの生徒に話を聞くと、彼は二日前に、遠くの地方にある学校へ転校したらしい。事件の犯人はだれも知らない。

〈恨み〉