拝啓

布団

 

 ごめんなさい。ごめんなさい。私のせいです。あなたは君のせいじゃない、君には関係ないと言うけれど、やっぱり私は私のせいだと思ってしまうのです。ごめんなさい。信じられなくてごめんなさい。言うこと聞けなくてごめんなさい。

 

 困ったらすぐに話してほしい、頼ってほしいって言ってくれるのに、何も言えなくてごめんなさい。もう何回目でしょうか。そろそろ愛想を尽かされそうです。それがとても怖いのです。けれど、けれども、頼りすぎてあなたに嫌われるのも怖いのです。頼りすぎてあなたが苦しんでるのを見るのも嫌なのです。あなたも、私が苦しんでるのを見るのは決して心地よくはないのは分かってるのに、自分だけあなたが苦しんでるのを見るのが嫌だなんてわがまま言ってごめんなさい。頼れなくてごめんなさい。

 

 そんなこと言って、けれど苦しいのを隠しきれずに、結局心配かけてごめんなさい。全部私が弱いからです。全部私が弱いのが悪いのです。あなたは何も悪くありません。世界中の人はみんな、自分の思うように生きているだけです。何も、悪くないのです。私がだけが悪いのです。まともに考えたらそんなことないのはわかっています。けれど、私の心はわかってくれないのです。私の世界では私だけが悪いのです。私が悪いのです。それなのに心配をかけてしまって、苦しいのを分けてしまって、私はいるだけで邪魔な人間です。こんな人間なんて、あなたと関わるべきじゃない。そう思っているのに、私はあなたのことが大好きだからなんて理由で関わりを断てなくて、ごめんなさい。迷惑ばかりかけてしまって、何もできなくて、ごめんなさい。

 

 周りがなぜこんなに私に優しいのかが、わかりません。私はそんなに優しくされるようなことをしていません。なぜ周りが私を罵らないのかがわかりません。私は罵られて然るべきことばかりしてきたように思います。だから私は厳しい言葉を投げかけられたとき、少し安心するのです。お前が悪い、お前の責任だ、お前のせいだ。そうです、周りの人はそう思って然るべきなのです。私が悪いのです。実際にそう言われたとき、やはり傷つきはしましたが、しかしそうなのだと心から納得することができました。私が悪いのです。私のせいなのです。けれど周りの人は私を庇うのです。こんな極悪人を庇い、それどころか労ったりもするのです。そんなとき、嬉しくはあるのですが、どこか居心地の悪さを感じるのです。あなたの心を素直に受け取れなくて、ごめんなさい。信じられなくて、ごめんなさい。自分に自信がなくて、ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 この文章を見返してみて、気持ち悪さに襲われます。私はこんなにも窮屈で偏屈で卑屈なことを考えていたのでしょうか。私は自分がそんな人間だと認めたくはありません。けれど、多分、これが私なのでしょう。ああ、自分が嫌になります。醜く思えます。今まで私は私のことが好きだと思っていましたが、どうやらそれは嘘だったようです。

 

 自分のことを嫌っていると、自信を持っていないと、私のことが好きなあなたが悲しみます。そして、こう言わなければいけないと思うのです。「大丈夫、あなたは悪くない」「あなたのせいじゃない」優しいほど、私を好いてくれているほど、そんな言葉をかけないといけないと思ってしまいます。そう思ってしまうほど優しいあなたに、心配なんてかけられません。そう思ってくれるほど親しいあなたの、重石になんてなりたくありません。そう思ってくれるくらい私を好きでいてくれるあなたに、嫌われたくありません。だから私は自信を持って、堂々としていなければいけないのです。

 

 なのに私は、それすらもできない。

 

 

 

 

 

 私があのとき苦しいなんていわなければ、あなたまで苦しくならずに済んだ。私があのときちゃんと確認していれば、あなたが代わりに傷つくことなんてなかった。私があのときわがままを言わなければ、あなたは泣かずにすんだ。私があのとき君に電話をかけていたら、ごめんねなんて言わなければ、あなたは今もここにいた。

 

 こんな私なんていないほうがいい。自分にすら見放された私は一体どこへ行けばいいのでしょうか。こんな自己満足の、歪んだ思想と心の吐きだめなんかを記して、世界の汚点に成り下がって、一体私はどうすればいいのでしょうか。私という存在がなければいいのにと、幾度も願いました。けれど私が消えてしまったら、私の穴をみんなが埋めないといけません。一人の穴が思っているより大きいことを、私は知っています。昔、あなたが「自分が生きる意味はあなただ」って言ってくれたのを、私は覚えています。私が死んだら悲しむ人がいることくらい、分かっています。だから私は生きないといけないのです。生きることは、私が決して逃れることのできない義務なのです。こんなうじ虫のように醜い私も、生きないといけないのです。

 

 けれど、私をそんな風に思わせたのはあなたです。あなたが私なんかに構うから、私なんかを大事にするから。私がこんなに苦しんでいるのはあなたのせいです。あなたの言葉は呪いです。あなたの優しさは呪いです。あなたが私を生かしているのです。ここにつなぎとめているのです。そんなことをしないでください。私はもう生きていたくないのです。

 

 

 

 

 

 こんなことを思ってしまうなんて、やっぱり私は、酷い。

 

ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 誰か、私を救ってください。

 

 

 

 

敬具