Maサバイバル

りつあん

 

 今の感じられない不毛の地で、一人の男が、ガラクタと小さな黒い箱に囲まれて座っていた。彼の茶色い瞳は絶望で昏くなっている。

 

 

 

 今からおよそ五百年前。レヴィアンタ魔道王国という国があった。今はなきレヴィアンタ魔道王国では「Ma」――神の子供を産むべき女性(ひと)――という地位につく女性がいた。

 

 

 

 次期Maの座を狙い、四人の才女たちが火花を散らし始めていた。その国でMaになるということは女王の座に就くということだった。一人は色に溺れた娼婦。一人は驕り高ぶる女貴族。一人は兄に恋する嫉妬深き少女。そして一人はその兄の婚約者。生まれも境遇も違う四人。四人は欲望に溺れ悪魔へと変貌した。他の女を倒し生き残れば自分がMaになれる、という考えから皆が皆、武器を手にした。そして――殺し合いが始まった。

 

 始動したサバイバルは皆を疑心暗鬼に陥らせた。疑心暗鬼は友愛情にさえも勝った。皆が皆、それぞれの味方をも怪しんだ。そして、相手にこう呼びかけた。

 

「貴女の後ろで嗤うのは本当に仲間ですか」

 

 

 

 一人の科学者が一人に囁いた。他の女を全て殺せば次期Maはお前だと。

 

 

 

 ある日、一人が死んだ。崖から足を滑らせたということだった。それはもしかしたら嘘かも――。最後に生き残るのは誰だ?

 

 

 

 残るは三人。女貴族はサバイバルから脱落した。

 

 

 

 サバイバルは終わらない。現実主義が性善論を超えた。私の命を狙うのは本当に敵なのか。そんな感情が残っている三人を支配した。

 

 

 

 ある日、一人が首を吊った。醜い争いに心を痛めたという。そんなの、絶対に嘘だよ――。最後に生き残るのは誰だ?

 

 

 

 残るは二人。娼婦はサバイバルから脱落した。ここからは義姉妹の争いである。そんな中、彼女たちの想い人でもある男は苦悶していた。彼は妹も婚約者もどちらも大切だった。二人には死んでほしくなかった。彼は国で一番の腕を持つオルゴールづくりの達人でゼンマイ使いと呼ばれていた。彼の作るオルゴールは聞く人の心を癒した。彼は自身の技で彼の妹と婚約者の心を解きほぐそうと決めた。しかし――。時、すでに遅し。

 

 

 

「お義姉さま、もうやめましょう。残る候補も私たちだけ。こんなの無意味だわ。女王にはお義姉さまがなればいいわ。兄が選んだあなただもの」

 

「ありがとう。大丈夫あなたを死なせはしない。守ってあげるから――」

 

 

 

 ジャキッ。ズブッ。ブチッビシャッ。

 

 

 

 血の花を背中に咲かせ義姉はその場に崩れ落ちた。今際の際に見たものは泣き叫ぶ義妹の顔だった。

 

 

 

 一人は崖から突き落とし、一人は木から吊り下げて、一人は騙して刺し殺した。三人を手にかけた罪深き少女は新たなMaに選ばれた。祭壇に立ち微笑む彼女を祝福する国民たちの中には彼女の大切な兄がいた。彼の手にはナイフがあった。次期Maが決まってもサバイバルは永遠に終わることはないのだ。新たな女王を狙った刃が煌めかんとした。

 

 その刹那、彼の最愛の人、婚約者の声が響いた、気がした。

 

「私の亡骸をあの研究所に連れて行って。その大きな箱に入れるのよ。そうすれば私は生き返られるの。さあはやくはやく」

 

 

 

 彼は怒りも忘れ彼女の言う通りにした。その瞬間、太陽のように明るい光が辺りを支配した。そして、爆発音。レヴィアンタ魔道王国の滅びの時だった。ほぼすべての人が死んだ。その騒動の原因となった彼女と彼女を殺した張本人、Maに選ばれた彼女の妹を除いて。だから。

 

 

 

 彼が生きていた頃は、国で一番と評されたゼンマイ使い、オルゴールを作る達人だった。しかし今ここで彼が作っているのは小さな黒い箱のみ。絶望は彼の才能をも壊した。妹も婚約者もいない世界で、彼は今でも二人がここに来るのを待っている。ガラクタに囲まれて。彼の脚は透き通り、もう二度と大地を踏むことはない。