愛と勇気だけが友達

 

月兎

 

「僕は孤独じゃない。愛と勇気だけが友達だから」

 

僕の弟はそんなどこぞの菓子パンヒーローのようなことを大真面目に話すやつだった。ん? 過去形じゃないかって?

 

そうだね、その話をしよう。話はつい一週間前にさかのぼる。

 

 

 

「行ってきまーす」

 

 あの日、すべてが変わった日。弟が元気に家を飛び出ていった。別に家出じゃない。学校に向かったんだ。僕は大学生、弟は小学生。ずいぶんと年が離れているのは再婚した親の連れ子だったからだ。

 

 弟は成績も悪くないし、いつも元気で、悩みなど無さそうだ。今の大学に滑り込み入学した僕と違って。

 

 でも現実は違った。それがわかったのはその日家庭訪問に来た小学校の先生の話だった。

 

「休み時間も一人で机でじっとしていて、あまり他の子達と遊んでないみたいなんです」

 

 そう、弟には友達がいなかった。それも仕方ないのかもしれない。親の再婚と共にこちらに引っ越してきたので周りは知らない人たちばかりなのだ。引っ越しを繰り返して慣れてるならまだしも、初めてではそんな簡単に溶け込めるはずもない。

 

 このことを僕含む家族が知っていることを弟は知らない。相談してこないということは知られたくないんだろう。僕らに知られて心配されるのが嫌なんだろう。だから僕も彼とその事について話そうとは思わなかった。

 

 だが親は違った。家庭訪問のあったその晩、弟の友達関係について家族会議が始まった。

 

「ねぇ、なんで相談してくれなかったの?」

 

「そうだぞ、言ってくれさえすればお父さんたちも相談に乗ったのに」

 

「いいんだよ。僕は勇気と愛だけが友達だから」

 

 そう言って、弟はくしゃっと笑った。そして自分の部屋に駆けていき、その日は部屋に鍵をかけたまま出てこなかった。僕は走っていくときの弟のなにか思い詰めたような、なにかを決心したような顔を忘れられなかった。

 

 次の日、しびれを切らし部屋の鍵をこじ開けた僕たちが見たのは床に横たわる弟だった。そして顔の近くには毛糸。首をつろうとしたのかと僕は思った。小学生がそこまでするのか、と。しかし、真実は違った。ただ寝ているだけ。そして毛糸は切れていた。一度わっかにして、ハサミかなにかで切ったような、そんな形跡があった。僕が起こすといつものように顔を洗い、朝食を食べ、歯を磨き、服を着替えて学校に向かった。

 

 そして夕方帰ってくるとすぐに部屋に走っていった。そして今まで使ったところを見たことのないバットを出してきて、また風のように外へ走り去っていった。

 

 

 

お題

 

「僕は孤独じゃない。愛と勇気だけが友達だから」

 

アルミホイル