スーパーヒーロー

りつあん

 

 幼い頃、テレビで見た無敵の赤いマント。彼はそれに憧れていた。モラルのない現代に必要なのはそんなヒーロー、という考えが彼を支配してやまなかった。だから今度は彼がそのヒーローのように正義を下そうと思った。

 

 そんなわけだから彼は隙あらばゴミ拾いにいそしんだ。成人して自分の時間が増えてからそれはますます顕著になっていった。迷子の仔猫を助けたこともあったし、集団でいじめている人を見つけていじめっ子たちを蹴散らしたこともあった。窃盗犯を懲らしめたりもした。彼はどんな小さな悪も見逃さなかった。彼にはスーパーヒーローの才能があったらしく、彼に叱られても誰も逆ギレなどせず、彼の言うことを聞いた。こうして彼は街の英雄となったのだ。

 

 しかし彼は虚しさを感じていた。もちろん、街の人々が彼を慕い、敬っていることには不満はない。が、彼がいくら注意しても街から悪がなくなることはなかった。注意しても注意してもそれが報われないことほど虚しいことはない。

 

 彼は悪を滅ぼすため何度も戦った。幾千の死闘を乗り越えて辿り着いた結論とは――。「本当の悪は権力の中にいる……!」というものだった。

 

 これに気が付いた彼は権力という真の敵を倒すための作戦を立てた。

 

 それは史上最大のものとなり、何千、何万もの罪のない市民が犠牲になった。彼は心が痛くて痛くて痛かったけれど真の敵を倒すため、耐え抜いた。この悪にまみれた世界を変えるため、彼は必死になった。これまで繰り返してきた戦闘では死闘と思っていたものも今となっては彼の圧勝だったと思われるほどの苦戦となった。マスメディアはこぞって彼のことを報道した。「気が狂れている」「人殺しだ」と呼ぶ人もいた。彼にとってそんな人々は悪だった。だから彼はそんな奴らに正義の鉄槌を振り下ろした。人々は彼を恐れ、逃げ惑う日々を送っていた。しかし、それも終わりを迎えた。

 

 ある日のことだった。彼は街の人々に捕らえられた。それまでは彼を慕っていた人々だったが、その時の彼を慕っている者は皆無だった。人々にとって、彼は倒すべき敵だった。

 

「テロリストだって? そんなバカな! おい、何処に連れて行くんだ? 皆を、街を、世界を、君を、守ったヒーロー様だぞ!」

 

 彼はそう言って抵抗した。しかし、それも無駄だった。

 

 彼はすぐに牢に入れられた。そして間もなく裁判にかけられた。彼は無罪を主張したが誰も聞き入れなかった。全会一致で彼は死刑に処されることが決まった。それが決まった時、彼は

 

「テレビはこんな結末じゃなかった……。ただ、あなたのようになりたかっただけなのに……」

 

 と呟き、すべてを諦めた。

 

 処刑の時。彼はこう言った。

 

「僕は狂ってなんかない。正義が負けるはずない。意志を継ぐヒーローが現れ、悪を滅ぼすんだ!」

 

 そして、ボタンは押され、彼はこの世を去った。最後まで自分の意志を貫いた孤高の人としてある人々の間では語り継がれているらしい。私がどう思っているのかって? 私は彼の遺志を継いで、悪を滅ぼす方法を考えている。……安心してくれ。私は罪のない人は死なせない。君のことも守ろう、君が悪でない限り。なぜこんなことを考えているのか? それは私が彼の処刑をした警察官で彼の言葉にうごかされたからさ。