生徒代表挨拶

 

寸刻み

 

 

 

今回、生徒総代に選ばれ、年度修了式というこの晴れ舞台での挨拶で挨拶に臨むこと、我が身の誉れに思います。

 

 元来、生徒総代とは我が校、延いては我が母国たる帝国の国是に適い、その未来を担うに相応しい生徒に与えられるものです。率直に言えば、僕は自身がその資格を持ち得るとは思いません。座学はもとより、その他の成績においても突出したるところはなく、決して優秀な生徒とは言えなかった僕が、それでも生徒総代に選ばれたのは、ひとえに「挨拶」というものを大切にした故でしょう。

 

 僕の恩師、*****先生の言葉を借りれば「挨拶は民族的信念の表明」です。朝会ったとき、別れるとき、感謝を述べるとき。発する言葉の内容が、発音が、言語が、全てその人物の信念そのものなのです。

 

 そう考えた時、僕たち本国学校の生徒にとって、挨拶の持つ意味はあまりにも重大です。我が校の校訓は「共存共栄」。毎朝、全校集会で敬礼を行うことは、まさにその象徴とも言うべきものなのです。

 

 この場におられる皆様はきっとご存知のことでしょうが、僕の両親は内乱罪で今は収容所にいます。僕は昔から、祖国の民族的、史実的正当性の欠如や尊厳を取り戻すための闘争の義務といった妄想を聞かされて育ちました。恥ずべきことに、僕は一時、彼らの言葉を疑わないことさえありました。

 

 そんな僕の目を覚ましてくれたのは、先にもあげました*****先生です。先生の熱心な御指導は、僕の内に帝国民としての確固たる自覚をもたらしました。全校集会で我々が行なっている「挨拶」というものにどれだけ偉大な意味が込められていることか。それを知ったとき、僕は自分のなすべきことを理解しました。売国奴は収容所へ送られ、僕は今こうしてこの場に立つことができているのです。

 

 これが僕が生徒総代に選ばれた理由であり、この学期に学んだ最も重大なことです。これからは尚一層、帝国民として恥じない態度で学業に臨み、国家の発展の為、微力を尽くしていきたいと思います。

 

 生徒総代、*****。