虚戯曲

タピオカ

 

 突然だが皆はボクのことが好きらしいけれど、俺は皆のことが好きじゃない。

 

 そもそも皆が好きなボクは、俺じゃない。凛太郎と呼ばれる俺に良く似た赤の他人だ。

 

 凛太郎と呼ばれるやつは学校の人気者らしい。

 

 文武両道で、そこそこイケメンで、男女問わず優しく話しかけ、時には冗談を交えて皆を笑わせられる話術の持ち主で、弱小だった薙刀部をインターハイ出場するまで育て上げた実力があり、それを驕ることなく謙虚な精神で、奉仕の心を忘れず、もし道でおばあさんが困っていたら迷いなく助けに行くし、交通機関で妊婦さんが目の前に立っていたら直ぐに座席を譲るし、人の目を気にすることなく自分が正しいと思ったことをし、間違った人がいたら叱りとばすのではなく優しく諭す、心優しい善人で、悪は許さず、だが、悪にも寄り添い、教師にも好かれ、後輩は憧れるような立派な高校生で、将来は期待され、この国を背負ってたつような人物だ。

 

 どうだろう。

 

 正義の味方。善人。気持ち悪くなるぐらいの理想的な人物じゃないか? 実際、俺はめちゃくちゃ気持ち悪いと思う。

 

 他人、彼らの理想を押し付けられているのが、ボクこと『凛太郎』と呼ばれるスーパー高校生だ。

 

 ……本当に誰だよこいつ。俺はもっと矮小な人物だよ。まぁ誰も気付いてくれないんだけどね。

 

 ある日学校で、俺が何か間違えて、彼らの理想にそぐわないことをしてしまった時があった。俺はそれに少し期待した。本当の自分に気付いてくれるんじゃないかなって。でも、違った。

 

「「「「凛太郎はそんなことしない!」」」」

 

 事実さえ彼らの理想は捻じ曲げてしまう。

 

 その時、俺には俺の決定権は存在しないことに気づいたんだ。

 

 正義の味方に味方は居ないのだ。

 

 俺は凛太郎じゃなかったらしい。だから俺は凛太郎という名前が心底嫌いだ。元々古臭く嫌いだったけど、今はもっと嫌いになった。

 

 よく

 

「凛太郎のこと信じてるよ! 頑張れ!」

 

とか言われるけど、心から信じてる人には信じるなんて言葉は使わないはずだ。

 

 信じてないから信じるって言葉を吐く。これは詭弁だろうか。

 

 ――あぁ、いつから面白くもないのに笑うようになったんだろう。

 

 でも皆が笑ってるから俺も笑わないといけない。

 

 笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑。あっはっはっ。冷めた笑いが止まらないわ。

 

 惰性で見てるテレビのように自分の人生が過ぎて行く。俺の目に映っている俺は俺じゃないから、そこには何の感慨もない。感動もないし、感情もないから成長もない。

 

 今、いっそ一思いに煩わしいモノ全部斬り殺しても良いような気がした。もちろん薙刀で。

 

 けど、そんな大それたことする勇気もない。

 

 それにそもそも刃のついた薙刀なんて持ってない。

 

「周りをどうにかするより自分をどうにかする方が良い。前向きな考えが良い」

 

とか何とか偉そうな顔で言う奴が居るけど、それ全く前向きな考えじゃないし。

 

 それって、周りを消したい人にとってはさ、自分を消した方が良いってことだろう。

 

 そんなんだから自殺は無くならないんだよな。

 

 俺は消えちゃいたいけど、自殺する勇気もないからね。

 

 生きる意味も無ければ死ぬ意味もない。

 

 ないないづくしだ。

 

 けどね、俺は死ぬまで凛太郎を演じる。だってそれしか残ってないから。

 

 

 

 

 

〈お題〉

 

凛太郎という名前が古臭くて嫌い。

 

 趣味は薙刀

 

 五分に一度は誰かと喧嘩するが、兄貴感が強いせいか男女問わず妙にモテる。